最初の出会いは確か今年の五月。
職員室前の廊下は、放課後という時間帯もあって、あまり人通りもなく静かだった。窓から差し込む日差しは、ちょうど良い暖かさで、日下美好はのんびりとあくびをかみ殺した。
職員室のドアが開く音がした。
「失礼しました」
ぼんやりと外の景色を眺めやっていた美好の耳に届いた少年の声は、低すぎずよく透るきれいな声で、しかし高校生にしては大人びた響きを含んでいた。
どんな人だろう…?
興味をひかれ、視線をゆっくりと転じた先には、少し神経質そうな、眼鏡をかけた少年がいた。その少年は美好の視線に気づく事もなく、静かに側を通
り過ぎた。
すれ違いに見た少年の顔は、誰が見ても文句なしに整っていて、優に美形の範疇に入るものだった。
美好は目を見張った。
……すごいっ!すっごい好みのタイプッ。あんな人、うちのがっこにいたんだーっ。
そしてその日、美好は上機嫌で家に帰ったのである。
決して派手ではなく、ともすれば眼鏡の奥に隠れてしまいそうな、さりげなく整った造作。少し線が細い感はあるが、華奢ではない。背はすらりと高い。神経質と感じたのは眼鏡のせいか。
例の少年の名は一ノ瀬和貴と言った。3年A組所属の学年主席である。
そうだったの?と聞いたところ、あいつを知らないなんてのんきな奴はあんたくらいよっ、と返された。
「人を寄せ付けないんだよ。いつも一人でいるし。確かに、面
食いのあんたの好みではあるが…諦めな。相手が悪いよ」
そう言ったのは、親友の天野恭子だ。
「ただでさえ、秀才ってのは近寄り難く思われるのに、加えてあの冷たい無表情。先生達はちやほやしてるけど、生徒達の中であいつをよく思ってる奴なんていないね」
全国模試では必ず5番以内という彼の人は、その他大勢のひがみからか、特定の友人もなく、孤独な身の上であるらしい。
「ライバルがいないって事は万々歳じゃない?とにかく、決めた。誰が何と言おうと、私はあの人以外に考えられないわっ」
そして美好は親友の忠告を素直にきくほど、可愛げのある奴でもなかった。
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